本研究は特殊な塩基配列構造(タグ)とそれを確実に認識する励起子制御型蛍光核酸プローブのペアを確立し、RNAの長時間・多色イメージングに適用することで、生細胞内RNAの時空間解析を可能にするタグシステムを構築することが目的である。RNAの可視化技術開発は時間的変化を示す細胞内RNAの機能解明には不可欠な要素である。前年度ではプローブ配列の検討と合成、ならびにタグを含んだmRNAを発現するベクターを作製した。本年度ではプローブとベクターのペアを利用して生細胞内で転写されるmRNAの蛍光検出を試みた。プローブとベクターのペアは同時にHeLa細胞核にマイクロインジェクション法で注入した。しかしこの条件では細胞からmRNAの蛍光シグナルは得られなかった。mRNA自身の高次構造やRNA結合タンパク質によりプローブがタグ配列部分に近づけない可能性があると考え、タグ配列を64回つなげて挿入したベクターを改めて作製した。これにはプローブがタグ部分に近づく確率を高めると共にシグナルの増強を期待した。このベクターとプローブのペアを注入した細胞を10時間程度連続で観察したところ、初期の数時間の内に核から輝点状の蛍光シグナルが現れた。プローブのみを注入した場合、および転写阻害剤の存在下では輝点は現れないことから、mRNAを検出していると結論付けた。この輝点は核小体と、DAPIで強く染色されるクロマチンが凝集する部位を避けて存在した。また、緑色のプローブと赤色のプローブおよびそれらのペアとなるベクターを作製し同時に使用したところ、2種類のmRNAを同時にかつ誤認識することなく検出できた。以上のように、プローブとタグのペアを利用することでmRNAを複数同時に感度良くイメージングする新たな手法を開発した。
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