本年度は、α-(BEDT-TTF)_2I_3の『パルス電場制御メモリー効果』に関して、メモリー効果を発現させるために必要なパルス電圧の高さと時間幅、電流値の相関関係について研究を行った成果が得られた。具体的には、試料結晶に加える電圧パルスの時間幅を5msから20msのあいだで変化させ、各時間幅において、メモリー効果を得るために必要なしきい電圧の高さの値を測定した。その結果、パルス時間幅が長くなるにつれてしきい電圧の値が低下することが明らかになった。さらに、試料結晶と直列に接続されている負荷抵抗の大きさを増加させ電流値を減少させると、しきい電圧の値が全体的に大きくなることも明らかになった。以上の結果は、高伝導状態において生成するフィラメントの緩和過程がメモリー効果を支配しているとする説明と矛盾しないと考えられる。また、本研究で用いている光励起によって引き起こされる物性変化の時間分解測定手法を、有機超伝導体の光応答の研究に応用した。試料として、代表的な有機超伝導体の一つであるκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brを用い、超伝導相転移撮度(Tc)の近傍の温度においてナノ秒パルスレーザー光による光励起を行い、抵抗値変化の時間分解測定を行った。光照射によって過渡的に抵抗値が増加するが、緩和時間は温度に対する依存性を示し、特にTcよりもやや低温側において著しく長くなることが明らかになり、有機超伝導体の相転移ダイナミクスの特異性の一端が明らかになったと考えられる。
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