鉄還元微生物の一種であるShewanellaは、自然界に豊富に存在する酸化鉄を電子受容体として利用し、これらを還元することで生命活動に必要なエネルギーを獲得している。本研究では、Shewanellaが鉄鉱物の多い海底に生息していることに着想を得て、電気化学系に酸化鉄のナノコロイドを添加したところ、電流密度が50倍から300倍も増加する現象を見出した。天然に豊富に存在する鉄酸化物を用い、自然界に近い環境を作るだけで著しく電力生産能が上昇したことは、微生物燃料電池の実用化に向けて興味深い結果であると考えられる。 自然界にはFe2O3以外にも、多種多様な機能材料がナノ鉱物という形で存在している。たとえば、FeSは金属、Fe3O4は半金属、そしてFeOOH、Fe2O3、FeS2は半導体としての特性を有する。本研究では、Fe2O3の発見に着想を得て、電気化学セル内部で硫化鉄ナノコロイドの生合成を試みた。細胞を塩化鉄ならびにチオ硫酸ナトリウム存在下で培養すると、細胞懸濁液の色は1時間ほどで変わり始め、約3時間後には黒色の沈澱物が生成した。黒色沈澱物のXPSならびにXRD測定より、微生物の代謝活動によって鉄と硫黄の両方が還元され、準安定相であるmackinawiteナノコロイドが選択的に形成することを明らかにした。さらに、細胞がFeSナノコロイドを介して3次元ネットワーク体を形成することで、微生物からの電流生成は100倍以上に飛躍的に向上した。ここで、mackinawite相が金属伝導を示すことを考慮に入れると、電流の大幅な増大は細胞ネットワーク内部において効率的な電子伝達経路が自発的に構築されたことを示唆している。
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