層状化合物は結晶構造に由来した特異な物性を示すことが知られ、最近ではフルオライト型の酸化物層とニクタイド層が積層した構造を持つREFeAsO(RE:希土類元素)において50Kを超える高い超伝導転移温度が報告されたことから、特に酸化物層と15族・16族元素層との積層構造を有する層状複合アニオン化合物が注目を集めている。これらの物質系は系統的な材料探索が行われておらず、まだ多くの物質開発の余地が残されている。 本研究では、層状複合アニオン化合物の相生成に関して、過去の研究と材料探索の過程から次に挙げる設計指針を確立した。第1に、カチオンはアニオンや結晶構造に応じた価数を有する必要があり、特に合成温度領域で目的価数を有している必要がある。またそれぞれのカチオンのイオン半径はペロブスカイト型層のTolerance factorが0.9~1.0の範囲にある組み合わせでなければならず、さらに層間の格子整合性も考慮しなければならない。また複数のアニオン層それぞれの元素選択においては、酸塩基反応におけるHSAB則と同様の考え方が必要であることが分かった。各々のカチオン・アニオンを酸・塩基に見立てた場合、Oが硬い塩基、Xが軟らかい塩基に相当するため、硬い酸(カチオン)ほど酸素との結合を、軟らかい酸ほどXとの結合を形成する傾向を考慮に入れる必要がある。これらの指針を基に、特に新しい高温超伝導体として注目される鉄系超伝導体の探索を行った。その結果、鉄系超伝導体及び関連化合物として、(Fe2As2)(Sr4Sc2O6)・(Fe2As2)(Sr4Cr2O6)・(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)・(Ni2P2)(Sr4Sc2O6)・(Ni2As2)(Sr4Sc2O6)の5種類の新物質を発見した。これら新物質の物性を評価した結果、(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2As2)(Sr4Sc2O6)の三種の物質が超伝導体であることが分かり、特に(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)は超伝導転移温度が17Kと、常圧でAsを含まない鉄系超伝導体として最も高い転移温度を有していた。この他、透明導電体・紫外発光材料の候補材料である(Cu2S2)(Sr4Sc2O6)・(Cu2Se2)(Sr4Sc2O6)、CuO2面を有し銅酸化物高温超伝導体となることが期待できる(Cu2Se2)(Sr2CuO2)など多数の新物質を発見した。
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