研究概要 |
本研究課題では、強相関電子系が多彩な電子相を示すことに着目し、「電界による巨視的磁化制御」というスピントロニクスデバイス必須の基盤技術を、強相関酸化物ナノ界面で実現することを目指している。本年度は、典型的な強相関モット絶縁体であるLaMn03(LMO)とSrMn03(SMO)からなる界面を有望な系の一つと考え、この2物質からなる人工超格子を中心に基礎物性を探索した。LMO-SMO超格子は、既に多くの研究例があるが、基板の選択(格子整合条件)や界面の平坦性に細心の注意を払って系統的に試料を作製した結果、広く信じられているシナリオでは全く説明できない新奇な物性を見出した。LMO-SMO超格子全体の物性はLMO・SMO各層の厚さに鋭敏に依存して反強磁性絶縁体-強磁性絶縁体-強磁性金属と変化した。そして、金属・絶縁体の相境界にある超格子は、固溶体の(La,Sr)MnO3には見られない、磁気リラクサー効果を伴う巨大磁気抵抗効果を示した。特に驚くべきことには、LMO・SMO層がともに"正確に"2層(8A)の時は磁場誘起絶縁体→金属転移とも言うべき巨大な応答を示した。詳細な輸送特性、磁気特性の詳細な測定から、LMO-SMO界面に位置するMnサイトは、超格子内の他のMnサイトとは異なる電子状態であり、界面では反強磁性絶縁性・強磁性金属という相反する二つの電子状態が激しく競合していると考えている。以上の結果は、LMO-SMO界面というシンプルな系をもちいた電界による強磁性のon/off制御の実現を期待させるもので、今後検討したい。またこれらの現象については「強相関界面の基礎学理構築」という点でも意義深く、放射光などをもちいた微視的解明も並行して行っていく予定である。なお、上記結果について論文発表および招待講演を本年度実施した。
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