これまで色素増感太陽電池に用いる増感色素として、オリゴチオフェンにヘキシル基を導入したカルバゾール系有機色素の開発を行ってきた。今回、オリゴチオフェン上のアルキル基の長さについて、ヘキシル基(C6)より短いプロピル基(C3)および長いドデシル基(C12)を持つ有機色素を新たに開発し、その光電変換特性の評価および電子寿命測定を行った。アルキル基の長短により、酸化チタン電極への色素吸着密度が大きく変化することがわかった。つまり、アルキル鎖長が短くなるにつれ酸化チタン電極上の色素吸着密度が向上し、酸化チタンに注入された電子寿命と開放電圧が向上する。逆にアルキル鎖長が長くなれば、酸化チタン電極上の色素吸着密度が低下し、電子寿命および開放電圧が低下することがわかった。したがって、色素吸着密度とアルキル鎖長をバランスよく制御し色素による酸化チタン表面の被覆率を向上させることが、光電変換特性の向上につながることを明らかにした。 電解液中のリチウムカチオンの影響により、酸化チタンからヨウ素レドックスへの電子の再結合が促進され、開放電圧が低下することがわかっている。そこで、リチウムカチオンを酸化チタン電極に近づけないように、オリゴチオフェン上のアルキル基に酸素原子を導入したエーテル基を持っ新たな色素を合成し、光電変換特性を評価した。その結果は期待に反して、酸素原子のない従来の有機色素に比べると酸化チタン中の電子寿命が短いことがわかった。したがって、アルキル基上の酸素原子が逆にヨウ素レドックスを引き寄せ、電子の再結合が促進されていることが予想される。しかしながら、新規色素を用いた場合においては、酸化チタンの伝導帯端が負にシフトしていることがわかり、電子寿命は短いにもかかわらず開放電圧は従来の色素とほとんど変わらなかった。
|