研究概要 |
窒素ドープ酸化チタン(N-TiO2)は最も広く研究されている可視光応答型光触媒のひとつである.光触媒反応を理解するためには,光励起による電子正孔対(キャリア)の生成とバルク中や表面への拡散過程,トラップ過程,再結合過程を知ることが重要であるが,N-TiO2粉末ではフェムト秒からピコ秒領域のキャリア初期過程が未解明である.酸化チタンの解析には過渡吸収分光法が有効であるが,高密度励起によりキャリア再結合が促進されるため,微弱光励起が可能な高い感度が求められる,そこで本研究では,粉末のままで過渡吸収を測定する高感度フェムト秒拡散反射分光法を構築し,N-TiO2の光励起キャリア初期過程を明らかにすることを目的とした.初年度はまず,フェムト秒拡散反射分光法の構築と高感度化を実施した.レーザーシステムの調整と温度管理により,出力の揺らぎを低減させた.白色光発生にはフローセル(5mm)中の水を採用し,強く安定な参照光を得た.数千パルスの積算により,拡散反射の信号強度%absにして0.5以下の計測が可能になった(420-740nm).時間分解能は約800fsである.次に,本装置を用いてN-TiO2粉末の過渡吸収とその励起波長依存性を測定した.360nm励起して1ps後に640nmを中心とする吸収が現れた.Nドープ前のTiO2(ST-01)と比較してスペクトルはブロード化した.信号は緩やかに減衰し,1.6ns後にはピークが約40nm短波長シフトし,信号強度も約2/3になった.また,420nm励起でも360nmと同様にブロードなスペクトルが得られたが,2ps以降の緩やかな減衰に加えて約1psの速い減衰が観測された.これは励起光と参照光の相互作用によるもので,吸収信号ではない可能性が高いことが分かった.これらの結果に基づき,次年度はNドープ量依存性など,詳細についての検討に取り組む.
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