研究概要 |
窒素ドープ酸化チタン(N-TiO2)は最も広く研究されている可視光応答光触媒のひとつである.光触媒反応を深く理解することを目的として電子・正孔対(キャリア)の初期過程を研究した.1、構築した高感度フェムト秒拡散反射分光法(TDR)によるN-TiO2粉末の過渡吸収測定を行い,キャリア初期過程におけるN-ドープ量依存性,励起波長依存性を調べた.(1)紫外光励起により生成した伝導体電子は酸素欠陥へ深くトラップされ,その速度はNドープ量に比例しなかった.トラップ過程が電子の拡散律速であることが示唆された.(2)可視光励起後のスペクトルの形状から,電子は励起直後から酸素欠陥に深くトラップされていることが示唆された.Nドープ処理によって生成した酸素欠陥はN原子の近傍に形成される可能性があり,そのためTi3d←N2pの励起により生じた伝導帯電子は超高速でトラップされたと考えられる.(3)結果を論文にまとめ,発表した.2、CuまたはFeを担持したN-TiO2のTDR測定を行った.(1)紫外光(360nm)励起ではN-TiO2の電子の吸収が時間と共に担持Cu種またはFe種の一電子還元種の吸収へ変化し,電子移動が示唆された.(2)可視光(450nm)励起ではN-TiO2で観測される吸収帯とCuまたはFe部位を選択励起したときに観測される吸収帯の和として解析され,電子移動は確認されなかった.(3)N-TiO2上のFe3+のESR信号は光照射で増減しないことが確認された.(4)これらの結果と光触媒活性の相関を議論する論文を準備中である.3、窒素ドープ酸化タンタル(N-Ta2O5)への展開を試みた.TDR法で得られた過渡吸収はブロードで帰属できなかったが,時間分解発光分光法が有効であることが分かった.Nドープ量が増すにつれ,より多くの電子が深い欠陥サイトへトラップされると考えられる結果を得た.
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