研究概要 |
本研究は、高度に高次構造制御された光学活性高分子であるセルロースやアミロースを出発原料とし、『水酸基を位置特異的に誘導体化した多糖誘導体の合成手法の確立』と、『導入する置換基の精査による機能発現』に関する研究を目的とするものである。アミロースについては、グルコース環の2位にアセチル基を導入した後、3,6位を4-クロロフェニルカルバメート化したものが高い光学分割能を有することが昨年度までに明らかになっていた。そこで平成22年度は、3,6位を4-クロロフェニルカルバメートとしたまま、2位に導入するエステルをプロピオニル基に変えた誘導体の合成と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用キラル固定相としての評価を行った。その結果、光学分割を試したいくつかのラセミ体で分離係数値に向上がみられ、2位のエステル部位の構造が光学分割能に大きく影響を与えることを見出した。引き続き、2位のエステルをさらにかさ高くした誘導体を合成し、光学分割能に及ぼす影響について検討を行う。一方、セルロースについてはグルコース環の2,6位の水酸基にテキシルジメチルシリルクロライド(TDMS-Cl)を反応させてシリル化させた誘導体を合成し、HPLC用キラル固定相に用いてその光学分割能を評価した。その結果、溶離液にヘキサン/2-プロパノールを用いる順相系では誘導体が全く光学分割能を示さずラセミ体も固定相と相互作用しないのに対して、メタノール/水の逆相系では特異的な光学分割能を示すことを見出し、高い分離係数値で完全分割されるラセミ体もみられた。この結果より、かさ高いテキシルジメチルシリル(TDMS)基が作り出す疎水性空間が有効な不斉識別空間として機能することを明らかにした。
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