研究概要 |
本研究は、高度に高次構造制御された光学活性高分子であるセルロースやアミロースを出発原料とし、「水酸基を位置特異的に誘導体化した多糖誘導体の合成手法の確立」と「導入する置換基の精査による機能発現」に関する研究を目的とするものである。本年度はセルロースの位置特異的誘導体について、グルコース環の2,6位の水酸基にエステル、3位にエステルまたはカルバメート基を導入した新規誘導体の合成を行い、その光学分割能の評価を行った。合成では、まずセルロースの2,6位をかさ高いテキシルジメチルシリル基により位置特異的に保護した後、3位の水酸基をベンゾエートまたは4-メチルベンゾエートへと変換した。次いで、2,6位を脱保護して水酸基に戻し、酸クロライド、またはイソシアナートを反応させることでベンゾエートもしくはフェニルカルバメートへと変換した。得られた誘導体はシリカゲルに物理的に吸着させ、これを充填剤としてHPLC用キラルカラムを調製し、様々なラセミ体に対する光学分割能を評価した。その結果、2,6位と3位に異なるベンゾエート部位を導入した誘導体は完全な位置特異的誘導体へと変換することができず、光学分割能も低かった。一方、3位にベンゾエート、2,6位にフェニルカルバメートを有する誘導体については、完全な位置特異的誘導体は得られなかったものの、2,6位に3,5-ジクロロフェニルカルバメートを導入した誘導体が高い光学分割能を示すことが明らかになった。また、この誘導体を用いることにより、3つの水酸基全てに3,5-ジクロロフェニルカルバメートを導入した誘導体よりも高い分離係数値で光学分割できるラセミ体もあり、部分的にでもベンゾエートを導入した効果が見られ、セルロースに異なる側鎖であるベンゾエートとカルバメートとを導入した誘導体について光学分割剤としての可能性を見出すことができた。
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