格子状の障害物中に拘束された環状高分子は分岐高分子(Lattice Animal)のようなに振る舞うと考えられているが、分子シミュレーションでの検証は十分ではない。環状高分子から分岐高分子への粗視化プロセスが明らかになっていないことから、平成21年度は、障害物中に拘束された排除体積を持つ孤立環状高分子の振る舞いが、ブロッブ描像に基づくスケーリング則に従うかどうかについて調べ、理論で想定している振る舞いとどの程度一致するのかを検討した。具体的には、二次元空間中で1辺の大きさWの正方形の障害物を間隔Wで正方格子状に配置し、大きさWの値と、環状高分子の大きさNを変えたボンドフラクチュエーション模型のモンテカルロ・シミュレーションを行った。スナップショットの動画では、分岐高分子のような振る舞いをしていることを確かめた。分岐高分子の慣性半径がNの5/8乗に比例する予想を用いてブロッブ描像に基づくスケーリング則を考えると、慣性半径がNの5/8乗とWの3/32乗に比例することが予想できる。シミュレーションの結果は、この予想と一致していた。本研究では、重心の自己拡散係数と最長緩和時間についても調べた。重心の自己拡散係数は、重心の平均二乗変位の長時刻振る舞いから求めた。得られた結果は、分岐高分子に対する自由エネルギーの議論や過去の数値計算よりも、若干N依存性が強いものであった。また、環状高分子の緩和モードは対称性からフーリエモードであり、フーリエモードの最長緩和時間を評価した。得られた最長緩和時間のN依存性は、重心の自己拡散係数のN依存性と慣性半径の2乗のN依存性から予想されるものと概ね一致していた。これらの結果から、正方格子状に配置された正方形の障害物中の排除体積環状高分子は、排除体積を考慮した分岐高分子(Lattice Animal)に、ブロッブ単位で粗視化できることを明らかにした。
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