ナノサイズの強磁性体リング構造では、Onion状態とVortex状態という特徴的な磁化状態を有する。特に磁化がリング周に沿うVortex状態では、リング端からの漏洩磁場が抑制され、かつ磁気モーメントの回転方向により右/左回り磁化状態(カイラリティ)を有することから、高密度磁気記録媒体への応用が期待されている。そこで本研究では、強磁性体/非磁性体/強磁性体3層リングにおける上下強磁性層の静磁的相互作用を活用し、強磁性体リングの形状自体を変化させること無くVortex状態におけるカイラリティ制御を行った。本年度は強磁性体Co/Cu/Co3層リング構造を微細加工により作製し、4端子マルチプローブ検出法を用いて磁気抵抗効果による電気的検出を行った。さらに、面内磁場方向を端子が接続されているリングの対称軸からずらすことで、リングカイラリティの電気的検出手法を提案した。多端子構造の場合検出される電圧変化は各端子間に磁気抵抗の並列回路として記述することができ、その抵抗変化は印加する面内磁場角度で異なる。磁場方向を変えることで系の対称性を崩すことができ、その結果カイラリティの向き(時計回り・反時計回り)を電気的に検出できることを理論・実験両面から明らかにした。リングサイズが外径1.6ミクロン、内径0.8ミクロンの場合上下Coリングは反時計回りのVortex状態を取ることが安定となり、上下層が同じカイラリティ方向となる確率は75%であることが実験的に明らかとなった。本来時計回り・反時計回りのVortex状態はどちらも等しい磁気エネルギーを有する。一方のカイラリティが優先的に生じるのは、上下層の静磁的相互作用が強いことを意味しており、片方のリング構造からの漏洩磁場に起因する静磁的相互作用により、優先的に反時計周りのVortex状態が安定となることを明らかにした。
|