本研究は、光を単に物質の観察に使うだけでなく、光によって物質相のコントロールを行い、その動的挙動・相転移メカニズムを明らかにすることを主眼にした研究である。前年度では、二酸化バナジウム(VO_2)における光誘起絶縁体金属転移を光照射後の電気伝導度の超高速変化をテラヘルツパルスを用いることで捉えることに成功し、その相転移ダイナミクスがパイエルス的であることを示唆した。 光誘起絶縁体金属転移の研究では、テラヘルツパルスを検出光としてのみ用いたが、テラヘルツパルスによって光誘起現象を起こし、時間分解測定する試みをおこなった。対象を広げ探索した結果、ε型酸化鉄ナノ磁性体中の磁気共鳴をテラヘルツパルスで誘起し、スピン(バルク磁化)の歳差運動を時間分解測定することに成功した。この測定では、テラヘルツパルスの磁場成分で直接スピン系を誘起することに成功している。スピン歳差運動から円偏光のテラヘルツ波が放射されることを観測した。これは直線偏光のテラヘルツ波を入射し、円偏光のテラヘルツ波に変換されると見ることもでき、磁気光学効果の測定にも成功した。これらの成果については、Optics Express誌に掲載された。またYFeO_3では、強磁性共鳴と反強磁性共鳴に起因する2つのスピン歳差運動を誘起・観測することに成功した。さらにダブルパルス励起によって、コヒーレント制御を行うことにも成功した。このような超短磁場パルスでのコヒーレント制御は初めて達成できたものであり、この成果はPhysical Review Letters誌に掲載された。またこれらの成果については、ローマで行われた国際会議IRMMW-THz2010にて発表を行った。
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