高分子ハイドロゲルN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)は、人間の体温近傍に下限臨界溶液温度(LCST)を制御することが可能であり、薄膜では、表面の分子配向性が温度に応答し、親/疎水性変化を示すことが知られている。この特性から、細胞シート培養において接着性タンパク質を維持した状態での培養皿からの脱着を可能とし再生医療への応用が大変注目されている。しかしながら、基板との相互作用による2次元性が顕著となる超薄膜において、LCST近傍の膨潤・収縮挙動について、特に膜構造(膜厚、密度、界面ラフネス)の観点からは不明な点が多く、本研究では、試料雰囲気の温湿度を同時制御可能なX線反射率測定系を構築し、NIPAAm超薄膜における2次元的な網目構造と保水特性との相関を明らかとするとともに、LCST近傍における膜構造変化を詳細に観測することを目的としている。試料は、表面グラフトによりSiウエハー上に固定化されたNIPAAm共重合体薄膜を用いている。測定は、高分解能X線反射率計(Rigaku ATX-G)、試料の温湿度制御は、独自に作製した専用試料セル及び高精度温湿度制御装置(Rigaku HUM-1)を用いて行った。NIPAAm超薄膜を室温大気中で十分に乾燥させた後、試料セル内を室温に維持し湿度を80%まで上昇させたところ、室温大気中において5.97±0.03nmの膜厚が、湿潤状態では、6.89±0.03nmまで増加することが初めて観測された。温度一定であることから単なる熱膨張ではなく、高分子鎖内に大気中の水分を取り込み膨潤したものと考えられる。また、膜密度についても膨潤前後で1g/cm3以下と低密度であり、ゲル特有の高分子鎖の網目構造に由来するポーラスな膜密度を反映したものとなっていた。
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