本研究では、低周波ノイズ計測手法を用いることで、有機半導体中のキャリアの寿命を計測することを目的とする。これまでに行われてきた有機半導体についての研究において、移動度を測定することは多くなされてきたが、それ以外の半導体としての物性パラメータを直接測定することはほとんどなされていない。低周波ノイズ計測手法を用いてキャリアの寿命を直接評価することで、有機半導体における電荷輸送機構についての知見を深めることが可能になると考えられる。 平成23年度は代表的な半導体であるSiにおいては100μsのオーダーで寿命が見積もられ、その温度依存性からキャリアの散乱のメカニズムがイオン化不純物散乱からフォノン散乱に変化していることが分かった。このことから低周波ノイズ計測手法が半導体中のキャリアの寿命の評価に使えることを実証した。 この結果に基づき、有機半導体の1つであるペンタセンを用いた0.1cm^2/Vs程度と比較的高い移動度を持つ有機薄膜トランジスタ構造を作製し、この素子に対して低周波ノイズの計測を行った。その結果キャリアの寿命は100μsのオーダーと見積もった。さらにその温度依存性を測定することでキャリア伝導機構がホッピング伝導からバンド伝導へと転移していることを示唆する結果を得た。 これらの結果から低周波ノイズ計測手法を用いることで有機半導体中のキャリアの寿命の評価が加納となり、有機半導体中の電気伝導特性について議論を行うことができたといえる。
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