研究概要 |
従来の結晶構造解析では原子の熱振動を調和近似の範囲内で取り扱う.しかし,実際の原子は非調和熱振動をしており,これが熱膨張やソフトフォノンを始めとする構造物性の基礎をなしている.本研究の目的は,「高エネルギー放射光」と「単結晶回折」の組み合わせにより,X線回折による結晶構造解析を非調和熱振動のレベルにまで引き上げることである。特に,構造相転移をするペロブスカイト型誘電体結晶に注目し,相転移を支配する構造ゆらぎを,非調和性をキーワードとして議論する,そのため,SPring-8BL02B1の大型湾曲IPカメラを用いた高エネルギー放射光単結晶回折実験によるデータ収集の方法を確立と,解析手法の開発を目指した. 代表的な強誘電体であるチタン酸バリウムの立方晶(常誘電相)から正方晶(強誘電相)への構造相転移(相転移温度400K)に注目した.この単結晶を直径約100μmの球形に整形し,強誘電相転移温度の上下数点の温度で単結晶回折データを測定した.この際,35keV(波長0.35Å)という高エネルギー放射光を用いることにより空間分解能0.25Åという精密なデータを測定した.精密な熱振動解析により,従来議論の対象であったチタンイオンだけでなく,これまで注目されていなかったバリウムイオンの特殊な熱揺らぎを見いだした.この相転移を支配する揺らぎは,これらイオンの複合的な振る舞いによって説明できることがわかった.さらに,チタン酸バリウムに他のイオンを添加すると相転移温度や対称性が変化することに注目し,いくつかの固溶体の粉末を用いてSPring-8BL02B2にて放射光粉末回折実験を行った.立方晶相における熱振動解析の結果,イオンの熱揺らぎと相転移との関連を浮き彫りにすることができた.以上の成果について論文準備中である.
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