前年度に見出した、基板の歪みを利用したNd_<0.25>Sr_<1.75>MnO_4薄膜の軌道秩序パターンの制御を実験的に確かなものにした。3z^2-r^2軌道の方向が薄膜面内と面間に伸びている2種類の薄膜の光学スペクトルを、軌道の方向を考慮して偏光方向を変えて温度変化を測定し、同じ軌道整列が起こっているNd_<0.3>Sr_<0.7>MnO_3で報告されているスペクトルと同じ温度依存性を示すことが分かった。一連の軌道秩序パターンの基板による制御の研究を論文に纏め、Applied Physics Lettersにおいて発表した(本年度業績リスト)。 このような層状ペロブスカイト薄膜の電荷軌道整列を電場によって制御する場合、同じ層状ペロブスカイト構造の金属を電極に用いることが理想的である。そこで、Sr_2RuO_4薄膜、SrMoO_3、CaMoO_3薄膜、Sr_2MoO_4薄膜の合成を行った。ルテニウムは酸化物を作って揮発しやすいので、Sr_2RuO_4薄膜をガス圧を酸素ではなくアルゴンである程度上げた雰囲気で薄膜を合成した。結晶性を劇的に向上させたことにより、残留抵抗率がマイクロオームcmオーダーまで減少した。これまでPLDターゲットに含まれる不純物が原因で残留抵抗率が高かったと考えられていたが、結晶性を上げることによりマイクロオームcmオーダーまでは抵抗率を下げられることを発見した。また、極低温実験によって1Kで超伝導転移しゼロ抵抗になることが分かった。これは薄膜でSr_2RuO_4を超伝導にした初めての結果である。六価に酸化しやすいモリブデンを四価に安定化させるために、同じようにアルゴン雰囲気でモリブデン酸化物を合成した。成長条件を最適化することで薄膜ではこれまでの報告で最も低い残留抵抗率の薄膜の合成にSrMoO_3、CaMoO_3薄膜、Sr_2MoO_4薄膜全てに成功した。これらの薄膜は、本研究の層状マンガン酸化物の電荷軌道秩序の動的ダイナミクス制御だけでなく、ペロブスカイト酸化物デバイスの電極に有用であると期待できる。
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