有機デバイスの根幹物質であるペンタセン(Pn)の、グラファイト(HOPG)およびルチル型二酸化チタン(110)(ルチルTiO_2)上における真空蒸着による薄膜成長を低速電子顕微鏡/電子線回折装置を用いてin-situ観察した。Pn薄膜は、基板や作成条件を制御により、デバイス特性上好ましいとされるstanding-up構造(立配向)を作成可能なことが報告されているが、真空蒸着では成長した薄膜結晶同士のお互いに阻害するために、輸送特性上好ましくないドメイン境界をもった多結晶となる。本課題では、Pn薄膜が速度論的にa軸に比べてb軸が優先的に成長しやすいことに着目し、基板、温度の最適化による解決を試みた。HOPG表面は、Pnの主骨格であるベンゼン環だけから構成される表面であり、Pnとの相互作用が強く働く系である。この表面上への室温における蒸着の結果は、第一層にPnの濡れ層が形成された後、様々な配向をとる多結晶状態となった。また、Pnの吸着、脱着が平衡状態となる90℃においても制御できなかった。一方、Pnと基板の相互作用が弱い系では、濡れ層から立ち配向への自発的な転移が、Pn間の強い配向安定性から起こることが報告されている。ルチル型TiO_2は、無機物であるためにこの系に該当すると予想され、また表面再構成の結果[001]方向に一次元の酸素原子列をもつ凹凸を持つため、種結晶の初期形成を制御が期待される。作成条件の最適化の結果、Pnは表面の原子ステップ上に沿った成長、および濡れ層から1層目から結晶方向の揃った立配向への転移が起こることや、b軸成長が支配的な成長モードであることを確認したが、もともと基板表面上に存在する格子欠陥や局所的なアイランド構造から形成された異なる配向も同時に確認された。この制御のためには、表面が原子レベルで綺麗な幾何構造をもっパターン基板を用いる必要があることがわかった。
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