研究課題
分子磁性はスピンや量子技術の分野で着目を浴びているが、構造と磁性の関係は未だに複雑な問題である。将来薄膜デバイスの高性能には、薄膜の成長機構、とりわけ基板とフィルムの界面がとても重要である。低速電子顕微鏡(LEEM)は、高分解能かつ実空間観察可能であるため、この薄膜の成長過程を明らかにするに適し、スピントロニクスに向けた磁性薄膜分子の成長過程を原子スケールで明らかにすることをめざす。2009年度は、ペンタセン(Pn)がグラファイト上において非対称的なフィルム形成過程をLEEMにより実空間観察した。Pnはその形状から、薄膜形成の際、基板に対して水平な配向、および垂直な配向をとり、その配向がデバイス特性に大きく寄与する。本研究は、LEEMによる局所回折情報から、蒸着量の増加に伴う界面構造の変化の詳細について明らかにし、蒸着初期にはグラファイト上に、計12パターンから形成される濡れ層と呼ばれる構造を形成すること、また、蒸着をつづけることで、その上に水平、および垂直な配向膜が形成されることを明らかにした。これらの実験結果から、基板の濡れ層に関係なく、水平、垂直なPnの配向膜がともに形成されることが分かった。この結果は、J.Crystal.Growth紙に発表した。次に、本研究ではトポロジカルインシュレーター(TI)を研究対象とした。このTIはk空間上に強いスピン起動相互作用から構成されるディラックコーン構造が形成されるため、注目されており、単極磁性や、マヨラナフェルミ粒子のような興味深い物性を示す可能性がある物質郡である。本研究はTIの薄膜成長の様子もLEEMによって実空間観察を行うことで、薄膜の成長の最適化を行い、表面上において、バルク電導に関係がない様々な表面量子現象を観察できる薄膜成長条件をみつけることに成功した。この結果は現在論文誌に発表準備中である。来年度は、更なる薄膜の膜質の向上や、その構造と磁性の関係について調査する予定である。
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