本研究は単純構造を持つ金属錯体分子とグラファイト表面との界面相互作用を詳細に明らかにすることを目的としている。平成22年度は、走査トンネル顕微鏡を用いてカルボニル錯体分子の形成を起こす鉄クラスターのサイズについて解析を行うと同時に、昨年度に引き続きグラファイト表面上での鉄カルボニル錯体分子の熱的安定性と吸着状態についての知見および温度変化に伴う動的挙動(ダイナミクス)に関する知見を得た。超高真空中で200Kおよび650Kに保持した高配向性熱分解グラファイト表面上に鉄微粒子を真空蒸着させると、いずれの場合もStranski-Krastanov成長を示し、それぞれ直径2nm及び20~40nmの鉄クラスターが形成する。サイズが20~40nmの鉄クラスターに200Kで一酸化炭素を吸着させると鉄カルボニル錯体分子が形成することがヘリウム原子線散乱と昇温脱離種計測を駆使して明らかとなった。鉄カルボニル錯体分子はグラファイト表面のテラス上で高分散し、表面温度200-350Kにおいて一酸化炭素分子を放出する。一酸化炭素分子を放出して残った鉄微粒子は表面温度300-400Kにおいて表面上を拡散し平坦面を有する鉄アイランドをグラファイト表面上に形成する。一酸化炭素の脱離温度は単結晶の鉄表面の場合(450K)に比べて約100Kも低い。これはグラファイトとカルボニル錯体との相互作用に起因していると考えられ、吸着エネルギーにすると約45%程度も激減したことを示している。この一連の過程は、繰り返し測定しても観測され、鉄カルボニル形成を利用した一酸化炭素の吸着と脱離についての特異な触媒過程が見いだされた。
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