研究概要 |
Pdにおける水素吸着脱離過程の解明は水素吸蔵、あるいは水素精製という観点から重要な問題である。水素の吸蔵・脱離過程を原子レベルで見た時、明らかでない過程が存在する。過去に行われた昇温脱離測定から、200K程度の低温において非常にシャープなαシグナルと呼ばれる水素脱離シグナルが観測されることが分かっている。αシグナルに対応する水素吸着サイトは表面極近傍(表面から約30ML(原子層))にのみ存在するとされているが、明らかでない。そこで本研究ではPd超薄膜の作成を行い、Pd超薄膜の膜厚制御を行う事で、αシグナルの深さ依存性を測定した。Pd超薄膜はSi(111)ウエハーにエピタキシャル成長させたAg(111)膜上に成長させた。Pdは室温ではAg(111)上に[111]エピタキシャル成長を行い、Pd膜厚80ML以上では、下地のAgによる格子歪みが完全に緩和されている事をRHEED,AFMにより確認を行った。このPd表面に100Kにおいて水素曝露を行い昇温脱離スペルトルの測定から、αシグナルの水素吸蔵量を調べた。Pd膜厚が420MLにおいて、αサイトにおける水素吸蔵量は8ML程度で飽和する事が分かった。また、水素曝露量を固定しαシグナルのPd膜厚依存性を調べた所、最大で500MLまで増加させたが、αシグナルはPd膜厚に伴い線形に増加する事が分かった。このことからαシグナルの吸着サイトは、これまで考えられていた表面極近傍だけではなく、バルク中に2%程度均一に存在する事が明らかになった。αシグナルの水素吸着機構は、熱拡散における吸蔵過程とは大きく異なり、100Kで水素曝露を行っているため、主に量子トンネル効果が支配的となっていると考えられ、量子トンネル特有の浸入経路、吸着サイトが存在する可能性を示唆する。
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