21年度は、電子回折顕微法における種々の問題点を洗い出し、基礎的観点からも応用に向けての観点からも概ね研究計画に沿った成果を得ることに成功した。 まず、様々な初期位相からの収束解の平均化処理を行うことにより、それまで約20%程度にとどまっていた再構成の成功率を大幅に改善した。またこれによって、再構成結果に含まれるS/N比やアーティファクトを大幅に低減することに成功した。次に、記録する回折図形における量子ノイズの影響を定量的に考察し、それを踏まえた実験条件を設定しなおすことにより、これまでSi[011]方向から確認できていた0.136nmの分解能を大幅に更新し、Si[112]方向からのダンベル構造0.078nmの分離に成功した。これは収差補正TEMの現状での分解能を大幅に上回っている値であり、手法の持つポテンシャルを大幅に引き出すことに成功したと言える。 また、上記のノイズ量の考察を踏まえてサイズの異なる絞り穴を作製し、これまでは直径3nmであった再構成領域を、直径約5nm(面積比で約3倍)まで拡大することに成功した。また、複数元素からなる物質の代表として酸化マグネシウムの再構成に取り組み、ポテンシャルの異なる2種類の原子コラムを明瞭に区別して再構成することに成功した。これらの成果により、当初の研究目的である様々な構造を持つ物質の原子レベルイメージングへの応用に向けて、道筋を大きく開くことにつながったと言える。
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