22年度は、電子回折顕微法における種々の問題点を解決し、基礎的観点からも応用に向けての観点からも概ね研究計画に沿った成果を得ることに成功した。 本手法を新たな顕微鏡法として確立するための試みとして、前年度には直径約5nmの領域を再構成することに成功しているが、直径3nmの場合に比べ像質の劣化が認められた。これを解決するため、電子ビームの直径と波面湾曲および空間干渉性の関係を測定する手法を開発した。また実験を遂行する上での問題点として極小の絞り穴を作製する困難性とコンタミネーション付着を回避する必要があったが、FIBで効率よく穴を作製する手順を確立し、コーティングによる清浄化の道筋を達成した。これにより今後はさらに効率よくまた高い精度で広い領域の再構成を達成することができると見込まれる。 前年度は様々な結晶構造の再構成を達成したが、本年度は局所構造の再構成に取り組んだ。高分解能再構成達成への取り組みとして、酸化マグネシウムのエッジ部分の原子配列を再現する実験に取り組んだ。その過程で、電子回折図形に含まれるノイズの許容量に関する議論を深めることができ、ptychographyと呼ばれる複数箇所からの再構成データを結合する手法の採用によって、ある程度の像質での再構成に成功した。また、原子分解能のない中倍率での実験も行い、結晶シリコンのくさび形エッジ形状および半導体ナノワイヤーの再構成に成功した。これらの成果により、今後電子線ホログラフィーと同等の電場磁場観察手法としての展開が大きく期待される。 前年度に収差補正TEMの分解能を上回る78pmの空間分解能を達成したが、この要因について理論的側面からの考察をすすめた。その結論を踏まえて、当初の計画に沿って傾斜照明によるさらなる分解能の向上に取り組んだ。この点に関しては本年度中に目に見える形での成果までたどり着くことはできなかったが、ごく近い将来に達成できる見通しを立てることに成功した。
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