本研究では表面2次元電子状態のスピン分裂(ラシュバ効果)に注目し、その電子およびスピン構造の測定および電気伝導度測定を行うことを目的とし、実験および装置開発を行った。 伝導度測定装置については、超高真空装置内に設置できる液体窒素およびヘリウムでの冷却が可能な4端子測定器の製作を行った。試料および可動型の4端子をシュラウド付きのマニピュレーター先端に製作した。液体窒素を用いた実験では、装置各部で100Kを下回る温度が得られたことから、十分な熱の伝導性および温度の均一性が得られていることが確認できた。さらに緩やかな冷却過程(~5K/min)においては伝導度の温度変化が5K刻みで安定して得られることも確認した。また、伝導度測定器に対する磁場印加のため、液体窒素で冷却可能な銅製ボビンを用いた電磁石コイルを製作した。ボビンの冷却によりコイルに通電した際に発生する脱ガスが抑制され、さらに伝導測定器の輻射シールドとして利用することができた。この電磁石コイルは空芯で10Aの通電時に最大660 Oeの磁場が観測された。同時に製作した鉄芯を用いたヨークを利用した場合、目標とした5000 Oe程度の磁場が得られる予定である。 表面電子状態に関する実験では、PbとBiを共吸着させたGe(111)表面やBr終端Ge(111)表面に関するスピン分解光電子分光実験を行った。Photon Factory BL19Aのスピン分解光電子分光装置を用いることにより表面近傍に局在した状態のバンドにおけるスピン偏極を観測した。特にBr終端Ge(111)表面は過去に表面状態のスピン分裂が観測された表面系の中で最も軽い元素からなる点で重要な意味を持つ。またPbとBiの共吸着Ge(111)表面については原子構造の解析のため、SPring-8 BL13XUにおける微小角入射表面X線回折実験を実施し、重原子が一次元鎖状の構造をもつことを明らかにした。
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