研究課題
本研究では、マンガン酸化物における強磁性金属と反強磁性絶縁体という互いに競合する電子相をナノレベルで交互積層し、人工的な相競合状態を実現することを目指している。昨年度は、2つの電子相から成る人工超格子を作製し、その超格子が期待通り相共存状態を示すことを抵抗率や磁化率といった物性測定により明らかにした。そこで今年度は、薄膜における相分離構造をシンクロトロン放射光を用いたX線回折によって、より直接的に観測することに取り組んだ。測定対象とした試料は、強磁性金属であるLa_<0.5>Sr_<0.5>MnO_3(LSMO)と、反強磁性絶縁体であるPr_<0.5>Ca_<0.5>MnO_3(PCMO)を、5層ずつ積層された超格子である。300Kでは超格子は一様に常磁性絶縁体であり、250Kから180Kまでは超格子は一様に強磁性金属である。この温度範囲では、X線2θ-θスキャンのプロファイルは、化学組成の違うLSMOとPCMOが周期的に積層していることを示す衛星反射ピークやフリンジが観測されている。しかし180K以下の温度でPCMO層から反強磁性絶縁体相が発達して相共存状態に入ると、衛星反射やフリンジピークの強度が著しく減少することがわかった。一方、超格子に磁場を印加し、相共存状態から一様な強磁性金属状態へと変化させると、衛星反射やフリンジピークの強度が回復した。以上の結果は、構造的にはLSMOとPCMOが正確な周期で積層された理想的な超格子であるにもかかわらず、電子的な相共存状態が現れると構造が乱れているように見えることを意味している。そこで、相共存状態ではLSMOとPCMOの界面にナノメーターレベルの空間的な不均一さがあるとしてX線回折のプロファイルをシミュレーションすると、実験のピーク強度変化をある程度再現でき、相共存状態のミクロな様子が明らかにすることができた。本研究で明らかになった、異なる電子相同士の界面でのナノメートルスケールの不均一性の存在は、相競合を利用した相転移デバイスの開発を進める上で重要な知見になると考えられる。
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