研究概要 |
本研究は,高密度電流場を制御することによりステンレス鋼の疲労き裂修復技術を新規に開発し,疲労き裂修復の効果について評価することを目的とした.実験では,疲労予き裂を導入し,高密度のパルス電流を付与した.走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて電流印加前後のき裂の状態を観察し,Paris則を用いてき裂進展挙動を定量的に評価した. 実験結果より,電流印加時の疲労き裂の状態で,修復効果に違いが現れることが分かった.疲労予き裂が長く,開口変位量が大きい場合は,き裂閉口やき裂面間のブリッジングが生じ,一時的にき裂進展速度が低下することが示された.一方,疲労予き裂が短く,開口変位量が小さい場合は,き裂先端部でき裂が開口し,き裂進展速度が助長されることが示された.この原因の一つとして,高密度のパルス電流を付与したことによる,き裂先端部で生じたジュール熱に起因していると考えられる.予き裂の開口変位量が大きい場合,ジュール熱により生じた熱膨張ひずみが,降伏点を超えることにより,残留ひずみが生じき裂閉口が生じたものと考えられる.また,局所的にステンレス鋼の融点を超えた箇所で,き裂面間のブリッジングが生じたものと考えられる.一方,予き裂の開口変位量が小さい場合,ジュール熱による体積膨張のためき裂面が接触し,き裂面に圧縮応力が生じたと考えられる.この圧縮応力により残留圧縮ひずみが生じ,き裂が開口したため,疲労き裂進展が助長されたと考えられる. さらに,き裂先端部近傍に生じたすべり線を,AFMを用いて表面観察を行った.その結果,電流印加によりすべり線が消滅することが確認された.この結果は,すべりによる疲労き裂発生の抑制効果があることを示唆している.
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