ナノメートルオーダーの強誘電材料は、厚さ数ナノメートルの薄膜(2次元周期構造)や直径数ナノメートルのワイヤ(1次元周期構造)を有しており、圧電・強誘電ナンデバイスはそれらを多層的に組み合わせることで機能を実現する。一方、強誘電体は体積に非常に敏感な特性であり、ナノスケールの材料における強誘電性については未解明な部分が多い。さらに、強誘電性はひずみ(変形)とカップリング効果を有しており(マルチフィジックス特性)、この特性を利用することでナノデバイスの機能向上が期待されているが、その設計の基礎となるマルチフィジックス特性に関する詳細は明らかになっていない。したがって、原子・電子レベルの第一原理シミュレーションを実施し、典型的なナノ構造を有する強誘電体の力学的変形特性と強誘電特性のカップリング効果、すなわち、マルチフィジックス特性を解明することが本研究の目的である。 本年度は、導入した並列計算機に対し第一原理計算環境の最適化を実施した。同時に、効率のよい構造最適化アルゴリズムであるFast Inertial Relaxation Engine (FIRE)法を組み、計算速度の向上を実現した。同計算システムを用い、強誘電体ナノ薄膜の解析を実施したところ、強誘電特性は表面終端とする原子層によってその特性が向上または劣化することが明らかになった。また、面内の引張りひずみを負荷すると同特性は向上し、圧縮負荷では逆に劣化することが明らかになった。また、こうしたナノスケールの原子構造体の安定・不安定を厳密に評価する手法を提案し、その定式化に成功した。この手法は、一次要素を用いることで大規模な原子系への適用が可能である。
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