研究概要 |
本研究課題では,圧延方向に長く伸長したマルテンサイトが層状に分布した特徴的なミクロ組織を有する鋼材を対象とし,ミクロ組織の形成過程で生じる微視的残留応力と,その疲労き裂進展特性への影響を実験および数値シミュレーションにより解明することを目的とする. 平成22年度は,繰返し応力下でき裂が進展する場合の微視的残留応力分布の影響を明らかにするための研究を実施した.すなわち,平成21年度に構築および精度向上を図った微視的残留応力数値シミュレーションにより得られる微視的残留応力分布の下で,き裂が進展した場合の微視的残留応力の再分布挙動やき裂進展挙動を検討した.そのためにまず, (1)繰返し応力作用下でのき裂進展シミュレーション手法の構築を行った.構築した手法では,平成21年度の研究で明らかにした微視的残留応力分布を初期状態として,繰返し応力により逐次,き裂が進展することを取り扱うことができる.続いて,構築したき裂進展シミュレーション手法を用いて, (2)繰返し応力下でのき裂進展に及ぼす微視的残留応力および第二相強度レベルの影響の明確化を行った.層状組織鋼の疲労き裂進展特性の支配因子として,第二相の生成にともなって生じる微視的残留応力分布と,第二相の強度レベルが重要であることから,これらを変化させた数値シミュレーションを行った.その結果,まず,微視的残留応力の影響については,マルテンサイト相内が圧縮残留応力場であることにより,き裂進展が抑制されるものの,フェライト相内が引張残留応力場であることにより,き裂進展はかえって助長されることが分かった.また,第二相強度レベルの影響については,き裂前方に硬質第二相であるマルテンサイト相があることにより,き裂進展が抑制されることが分かった. 以上のように,本年度の研究により,層状組織鋼における微視的残留応力場および第二相強度レベルの影響を明らかにすることができた.
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