前年度の弾性率計測の結果から、室温で成膜された超格子の弾性率はバルク材の弾性率から推測される値よりも小さいが、熱処理によって弾性率がバルク値に近づく傾向が見られた。また、X線構造解析の結果から、Fe/Pt超格子では熱処理によって界面付近でFePt合金が形成され、500度以上の熱処理では全体がFePt合金になることが分った。これらの結果から、Fe/Pt超格子の弾性特性には合金層の性質が強く影響していると考えられた。本年度はこれらの超格子に対して磁気計測を行ったところ、熱処理温度によってわずかではあるが磁気異方性エネルギーが上昇する傾向が見られた。界面に形成される合金の磁気異方性エネルギーに比べると小さな変化であったが、合金の配向性がランダムであることが原因であると考えられる。これらの結果より、巨視的な弾性率の計測は巨視的な磁気的性質の計測に比べて界面構造評価に効果的であると考えられる。 Fe/Pt超格子においては界面での合金層の形成が全体の性質に寄与していることが示されたが、他の超格子においても界面構造の寄与が支配的であるかどうかを確認するため、Co/Cu超格子の弾性率計測も行った。Co/Cu超格子は巨大磁気抵抗を示す材料であり、多層膜構造であることが機能の発現に寄与している。Co/Cu超格子においてはCu層厚の変化によって周期的に弾性率が変化する結果が得られたが、この結果は界面構造の変化では説明することができなかった。Co/Cu超格子では巨大磁気抵抗効果においてもCu層厚によって周期的に性質が変化することが知られており、弾性と機能には相関があることが予想される。詳細については今後の研究課題である。 以上のように、本研究では機能性超格子の弾性率と機能に相関があることを実験によって明らかにし、界面構造の寄与を検証した。
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