研究概要 |
母体内で胎児を包んでいる羊膜は,再生医療における細胞培養の基質として使用されるなど,その有用性は医療の様々な分野で注目されている.羊膜を利用するときには,滅菌処理を行うが,生体由来の材料である限り,細菌の存在の危険性を完全に排除することはできない.また,羊膜の主成分であるコラーゲン線維を用いて,工業的に作られたコラーゲンシートも開発されているが,羊膜に比べて剛性が高いために,細胞培養の基質には適していない.そのため,羊膜のように剛性が低く強度の高い材料の開発が待たれているが,現在のところ,羊膜自体の機械的特性も十分には明らかになっておらず,生体薄膜材料の機械的特性評価手法も確立されていないのが現状である.そこで,本研究では,羊膜を対象にして,生体薄膜材料の機械的特性評価手法を確立することを目的とした.具体的には,試験片形状,試験片チャッキング方法,ひずみ測定方法を検討し,確立した手法を用いて羊膜の機械的特性評価を実施した.羊膜の引張試験には,ダンベル状試験片を用いて,タブに接着剤とカーボンテープを用いて固定する方法が適しており,チャッキングには,挟み冶具を用いることが望ましいことが明らかになった.また,画像相関法を用いた非接触ひずみ測定に必要な試験片へのまだら模様塗布方法としては,羊膜の特性に影響を及ぼさない炭酸カルシウムとインクを混ぜた塗料が適していることを明らかにした.さらに,確立した機械的特性評価手法を用いて羊膜の引張試験を実施したところ,羊膜は非線形粘弾性特性を持つ材料であり,透明度の高い羊膜の引張強度は5.55±2.41MPa,破断ひずみは22.3±3.95%,透明度に劣る羊膜の引張強度は5.03±1.54MPa,破断ひずみは19.2±5.11%と求まり,両者の強度に有意差は見られないことが明らかになった.
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