研究概要 |
構造材料の脆性破壊は,き裂の進展が結晶粒内で生じる粒内割れと粒界に沿って生じる粒界割れ大別される.従来の多くの実験観察から,一般に粒内割れのみで破壊が生じることは稀であり,粒界割れが支配的となり破壊が進行することがわかっている.これは,粒界での結合力が弱くなることにより材料の破壊じん性が低下するためであるが,粒界に不純物元素が析出する粒界偏析がその主要因であると考えられている.本研究では,原子・電子シミュレーションを用いて,多様な粒界構造や不純物元素に関して粒界偏析メカニズムを調査するとともに,これらの知見を導入した粒界偏析の包括的な評価法を構築することを目的とする. まず,粒界構造として<110>軸回転の傾角粒界を構築し,安定な粒界と不安定な粒界としてΣ3とΣ11の4つの粒界に対して,粒界エネルギーと過剰自由体積を評価し、Soerの関係との関連性について検討した.不純物の評価にはフェライト系ステンレスを対象として,マトリクス中に含まれるV,Cr, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Nb, Mo, Pd, Ag, Ta, A1, Si不純物についてBragg-Williamsの概念を用いて,不純物-原子が固溶したモデルのみで混合のエンタルピーを予測する手法を提案し,2~6原子までの複数の不純物が偏析した際の自由エネルギー変化についても検討を行った.その結果,三次元アトムプローブ観察で見られるように,銅やマンガン不純物は析出した状態が安定である一方,ニオブやタンタルは固溶状態が安定であるという結果が得られた.この予測結果は,計算時間の問題からエントロピー効果を無視したものであるものの,銅が著しい偏析傾向を示すということからも定性的に良好な一致が見られている.また,偏析傾向の異なる不純物の鉄中の結合状態は-4.0~-2.0eVのエネルギー状態の第一隣接間に広がるd-軌道間の相互作用に起因していることを示し,結合状態がマトリクスからの偏析傾向と大きく相関があることを示した.
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