研究概要 |
本研究では,導電性フィラーに銅メッキ繊維を用いた導電性樹脂射出成形品について,射出成形条件によりメッキ繊維の配向を制御して電気的特性を制御する手法を検討することを目的とした. 昨年度は射出速度等の成形条件と電気的特性(体積抵抗率)の関係を定量化し,射出成形CAEにより成形中のせん断応力と体積低効率の関係を明らかにした.成形品の電気的特性の制御にはメッキ繊維の配向制御が重要であり,昨年度において成形中の可視化実験により樹脂流動とメッキ繊維の配向挙動を調査する計画であったが,樹脂の影響により実施できなかった.今年度は,成形中の可視化実験により,成形中の繊維挙動を観察して電気的特性と比較するとともに,電気的特性の異方性に与える影響について検討した. 実験の結果,射出速度を速くすることで流れ方向(M.D.)の体積低効率は低下するが,流れ直角方向(T.D.)の体積低効率は上昇し,異方性が大きくなることが分かった.この原因を調査するため,可視化金型を用いて樹脂流動中のメッキ繊維配向挙動を観察した.その結果,成形品の板厚中心付近では,射出速度によってメッキ繊維の配向挙動に大きな差は見られなかったが,成形品表面からMIDDLE層(表面層と中心層の中間)において,高速条件ではメッキ繊維が強く流動方向にはいこうしがながら流動している様子が観察された.この結果から導電性射出成形品の面内の電気的特性の制御は,樹脂流速によりMIDDLE層のメッキ繊維の配向を制御することで可能であることがわかった.しかし,メッキ繊維の多くが面内に配向するため,成形品板厚方向の電気的特性は,面内に比べて非常に高い値となることが新たな課題として得られた.これに関しては,板厚方向の機能発現のための新たな成形プロセスの開発が必要と考えられる. 本研究により得られたこれらの知見は,フィラーによって機能を発現している樹脂材料(高熱伝導率樹脂)等にも応用できるものと考えている.
|