研究概要 |
ナノメートルオーダの微小隙間(ナノ隙間)に閉じこめられた液体は,バルク状態とは異なる粘弾性をもつことが知られている.この現象の理解は,磁気記録装置の液体潤滑薄膜の設計や,マイクロ化学チップの開発などに重要である,ナノ隙間の粘弾性測定法として,ファイバーウォブリング法(FWM)が開発されている.この測定法により,ナノ隙間で勢断される液体は,粘性や弾性が増大することが明らかにされた,このような現象は,分子の剪断配向が関与すると考えられるが,詳細は未解明である.そこで本研究では,FWMによる粘弾性測定と剪断配向特性の同時計測の実現を目的とした.FWMでは,試料の力学応答を検出するプローブとして,先端を球面加工した光ファイバーを用いる.先端で液体を摺動し,その時に働く剪断力をファイバーのたわみ量から求める.本研究では光ファイバープローブに光を導入できる点に着目し,複屈折測定によって試料の配向状態を得ることとした.すなわち,摺動部となるファイバー先端から試料に偏光したレーザー光を照射した.透過光の偏光状態から複屈折量を測定し,配向状態を同定した.光学系には光弾性変調器を導入し,同期検波することとした.これにより,高精度な複屈折測定に成功した.リタデーションΔnd(Δn:屈折率異方性,d:試料厚さ)の最小検出限界を評価したところ0.31nmを達成した.液晶性高分子(5CB)を試料として,粘弾性と配向特性の同時測定を行った.ガラス板上の5CBは光配向法により一定方向に配向させた.測定の結果,Anは100nm以下の隙間から急激に減少した.これは,剪断による配向と光配向の効果が競合し,分子の配向度が低下したためと考えられる.Δnの減少と同時に,粘性および弾性が増大することが明らかとなった.これらの測定結果から,ナノ隙間での液体の粘弾性と分子配向には密接な関係があることを見出した.
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