研究概要 |
モリブデン酸銅(銅モリブデン複合酸化物)には複数の形態の化合物が存在する.我々の研究の発端となったCu_3Mo_2O_9,および触媒としての研究例が多いCuMoO_4のいずれも,単金属酸化物のCuOとMoO_3の化学量論的な化合物となっている.文献調査および試行錯誤の結果,CuMoO_4粉末の合成が可能になったことから,これら2種類のモリブデン酸銅粉末と,その合成原料であるCuO粉末およびMoO_3粉末をステンレス合金同士のしゅう動界面に固体潤滑剤として塗布し,その潤滑特性の温度依存性を調べた.昨年度の研究においても,モリブデン酸銅の潤滑特性の温度依存性を調べた.しかし,モリブデン酸銅粉末の金属に対する付着性が乏しいために,特に低温では摩擦初期に潤滑剤が摩擦界面から大量に排出され,得られた潤滑特性には潤滑剤の付着性の温度依存性も大きく重畳した結果となった可能性がある.そこで,摩擦面に潤滑剤が保持されやすくなる形状に試験片を改良し,各種潤滑材料の温度依存性を得たところ,特に基材の摩耗量低減に大きな効果が見られたことから,摩耗量適限に必要な量の潤滑剤が摩擦面に残った状態でのしゅう動特性の温度依存性の把握はできたと判断した.その結果,2種類のモリブデン酸銅は500℃以上の高温雰囲気下において,MoO_3やCuOより優れた潤滑性を示すことが明らかとなった. 高温で金属酸化物が低摩擦を示す原因としては,温度上昇による材料の軟化によりせん断されやすくなることが指摘されてきたが,同様な温度で軟化するはずのMoO_3とモリブデン酸銅の潤滑性の近いが説明できない.これら材料の圧縮加熱試験の結果,モリブデン酸銅では基材成分との反応による化合物生成とあわせ,還元反応による金属銅の生成が明らかとなり,潤滑剤の基材への付着力の向上と合わせ,いわゆる軟質金属潤滑により潤滑性が得られたと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な実験データおよび分析データから,モリブデン酸銅の高温雰囲気下での優れた潤滑特性について,そのメカニズムをおおよそ説明できる状態まで達成した.また,最終年度に向けて行う被膜化についても,試行を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
試行段階ながら,被膜化に取り組みつつあるが,これまでの研究の過程で銅モリブデン酸銅が本質的には定温環境下では潤滑特性を発揮しない可能性が明らかになっている.一方,高温では優れた潤滑性を示すことから,低温域で効果を発揮する固体潤滑剤との複合物とすることで,広い温度域での潤滑性を発揮する潤滑膜とする必要がある. これには炭素系の固体潤滑剤を複合相手材とすることで,モリブデン酸銅の還元が比較的低い温度域からはじまり,これを達成するよう研究を進める.
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