研究概要 |
傾斜遠心顕微鏡を用いて,ガラス平板(以下,ガラス基板)およびMPCポリマーをコーティングしたガラス平板(以下,MPC基板)上におけるHL60細胞の挙動観察および付着率や平均移動速度の計測を行った.血球の駆動力である遠心力の基板接線方向成分F_Tを変化させた結果,付着率に関して,ガラス基板と比較してMPC基板の方が小さなF_Tで付着率の減少が見られた.これは,MPCポリマーの血球接着抑制効果の現れである.また,HL60細胞の移動速度計測において,傾斜遠心顕微鏡のロータの回転むら等に起因して連続画像の撮影位置がずれるために得られた速度データに誤差が含まれることが確認された.これまでは,基板にCrで十字線を描画し,その交点位置が常に画面内で一定となるように補正してきたが,HL60細胞のPTV計測のために全体的に画像を暗くする必要があり,十字線の認識が困難になる場合があった.そこで,特徴抽出でよく知られるHough変換によりこの十字線を抽出し,交点位置を取得する方法を考案した.その結果,CCDカメラの±1ピクセル以内でぶれを補正することに成功した. 次に,ガラス平板に正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を培養し,この上におけるHL60細胞の挙動を観察した.このなかで,ガラス平板上にHUVECをコンフルエントになるまで培養し,HUVEC表面の凹凸がHL60細胞の挙動に与える影響を,個々の細胞に注目して観察した.その結果,核の存在するHUVECの中央を避けるようにHL60が移動することが確認された.細静脈において,赤血球が血管中央に凝集する(集軸効果)結果,白血球は血管壁の方に押し出されることが知られている.これが,白血球が血管壁上を転がるローリングの一因と考えられているが,赤血球により血管壁に押しつけられながら移動する白血球にとって,血管内皮表面の凹凸が挙動に影響を与えることが示唆された.
|