研究概要 |
平成21年度に構築した三次元計算用のプログラムを用いて,種々の物理パラメータに対する数値シミュレーションを実施した.まず,せん断流れ場における単一固体の挙動を計算し,固体の変形度ならびに傾き角などの物理量に対して,既存の実験データと比較したところ,特に平衡状態における固体の変形度が実験結果と良好に一致した.また,弾性係数を増加させることにより固体の変形能を低下させ,せん断力を付加すると,Fischerら(1978)によって報告された膜が回転するtank-treading運動と同様の挙動を示した. 次に,マイクロチャネルを想定した平行平板間を流れる固体の挙動を調べた.その結果,変形能の高い固体は変形を伴いながら中心軸方向に移動し,軸付近を流れ続ける軸集中を示した.これに対し,変形能が低い固体は,初期位置にかかわらず,平板と中心軸との間の平衡位置を流れるSegre-Silberberg効果と同様の現象を示した.また,正方形ダクト内を流れる固体の挙動を調べた.その結果,初期に固体の重心を管軸上に配置したケースでは,固体は軸対称のパラシュート形状に変形し,管軸上を流れる様子が見られた.一方,初期時刻において固体の重心を管軸からオフセットして配置したケースでは,固体は上下に非対称なスリッパ形状に変形し,キャタピラのように回転するtank-treading運動を示しながら流れる結果が得られた. 上記で得られた成果は他の研究例でも報告されているが,本研究の特長は,Maxwellモデルという非常に簡素な粘弾性モデルを既存の二相系格子ボルツマン法に組み込むことによって,流体中の固体が様々な形状に変形する複雑な現象をとらえることができる点にある.よって,本研究の成果は,マイクロ流路内における粘弾性固体の複雑流動現象の解明へ大きな意義がある.
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