研究概要 |
本研究の目的は,円形噴流・平面噴流などに代表される空間発達自由剪断乱流場において,乱流モデルに欠かせない概念の一つであるスケール不変性の適用限界を明らかにすることにある.この性質は,実用上重要な高レイノルズ数乱流の乱流混合の予測精度の向上のために非常に重要である.この目的のため,前年度までに,本課題で用いるDNSコードにおいて多元連立一次方程式高速解法の構築,高次精度エネルギー保存型離散化スキームの導入,コードの並列化などを行い,研究環境を整えた.これを受けて,当該年度では自由噴流の解析結果の妥当性を保証するために,噴流数値解析における適切な境界条件の精査,噴流初期領域の渦構造から自己保存領域の乱流統計量までの過去の文献との比較,そして自由剪断流の乱流境界層理論解との比較検証を行い,本研究の目的でもある空間発達自由剪断乱流におけるスケール不変性の検討を行う計画である.研究の結果,初期領域までは信頼性の高いデータを獲得したものの,遠方の自己保存領域に関しては研究期間内に充分に収束した統計量を得ることができなかった.これは,下流における速度減衰に伴う空間発達の遅滞や時間的に収束し難い低波数変動の存在などが原因である.一方,空間発達を促すために鉛直上方への噴出流体を周囲流体より高温として浮力の影響下で解析を行ったところ,等温噴流と比較して,噴出孔直径の40倍程度下流の半値幅周縁部において乱流の非等方性に有意な差異の顕れることが明らかとなった.このことは,例えば工場煙突から排出される大気汚染物質の濃度分布の予測には,噴出孔直径の50~100倍程度遠方まで正確な解析を行う必要があることを示している.
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