研究概要 |
ボルツマン方程式は希薄気体力学(分子気体力学)の基礎である.同方程式は分子の2体衝突の効果を表す衝突項を含むが,それは複雑な多重積分で表され計算が難しい.分子模型(気体分子同士の相互作用のモデル)の詳細は,衝突項の具体形に反映される.一方,気体分子と物体表面との相互作用に関する情報は,境界条件に反映される.本研究では,分子模型や境界条件の違いによる影響に注目して,主にボルツマン方程式(または類似の気体論方程式)の直接数値解析により,非平衡希薄気体の種々の挙動を解明する.本年度の具体的な研究成果は,次の2つである. 1. 自由分子気体の挙動に対する境界条件の影響:定常な温度場により(外力が無くても)誘起される定常流は,希薄気体に特有の現象である.ところがマクスウェル型境界条件の場合,定常な任意の温度分布を持つ物体周りの自由分子気体(分子衝突が無視できるほど希薄な気体)には流れは起きないことも知られている.本研究では,Cercignani-Lampis境界条件の場合には,定常温度場により自由分子気体の定常流が起きること示し,その流れが適応係数に応じて変化する様子を具体的に示した. 2. 逆べきポテンシャル分子模型の場合の輸送係数:剛体球分子の場合には,ボルツマン方程式の衝突項を高精度・高効率で計算する数値積分核法が開発され,それを組み込んだ差分解法がある.これは一般的なDSMC法に比べて,負荷が大きく汎用性には劣るが高精度である.本研究では,数値積分核法の他の分子模型への拡張を目指している.その準備として,逆べきポテンシャル分子模型の場合に輸送係数の計算を実施した.具体的には,線形化ボルツマン方程式の衝突項を使って表わされる積分方程式の解を数値的に求め,それを数値積分することにより求めた.その結果は,Chapman-Enskog法による結果とよく一致した.
|