研究概要 |
本年度は,主に以下の2つの研究を実施した. 1.高度に希薄な気体の挙動に対する境界条件の影響:一般に希薄気体では,外力が無くても,定常な温度場によって定常な流れが誘起される.これは希薄気体に特有の現象である.ところが希薄化の極限,すなわち分子衝突を無視した自由分子気体では,物体表面でマクスウェル型境界条件を適用した場合,任意の温度分布を持つ任意形状の物体の周りで定常流は存在しないことが,数学的に証明されている.本研究では昨年度に引き続き,正弦波状の温度分布を持つ平行平板間の希薄気体の挙動を調べた.まずCercignani-Lampis境界条件の場合に,自由分子極限の積分方程式に基づく精密な数値解析,およびDSMC法による一般の希薄度に対する数値解析を実施した.その結果,定常温度場による定常流が自由分子極限でも生じることを示し,流れ場が適応係数・希薄度に応じて変化する様子を示した.次に,反射分子の速度分布が等方的である境界条件では,一般に(マクスウェル型条件と同様に)定常温度場による自由分子気体の流れが無いことを証明した.その具体例としてLordの境界条件(不完全適応の拡散反射)の場合の数値解析を実施した. 2.木星の衛星イオの大気の非定常的挙動に関する研究を実施した.イオは二酸化硫黄を主成分とする希薄な大気を持つ.この大気は,夜間および(木星の影に入る)食の間に気温が下がると地表で凝縮して霜になり,殆ど消滅すると考えられている.本研究では,食の間の大気挙動をモデル・ボルツマン方程式の差分による数値解析により調べた.特に,大気に含まれる微量な非凝縮性気体の影響に注目し,DSMC法による既存の結果と比較した.本問題のような非定常問題では,DSMC法と比較して,特に高精度の差分計算の強みが生きるなどの理由で,当初は予定のなかった本問題を研究計画に取り入れた.
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