本研究では積層構造を介したイオン流動に着目し、(1)プロトン伝導に関する理論モデルの構築、(2)燃料電池の組み立ておよび電流電圧特性の実測、および(3)理論モデルの数値解析を行うことを目標として研究を行った。プロトン伝導に関する理論モデルに関して、界面のポテンシャル障壁を介して隣接する二層を移動するプロトン輸送をモデル化した。そこでは、運動量を持つプロトンはMaxwell分布に従うとし、ポテンシャル障壁を越えるだけの運動エネルギーを持つプロトンが界面でエネルギー散逸を伴いながら移動することを仮定している。このメカニズムは、実測される電流電圧特性において過電圧として現れると考えられる。このことを検証するため、固体高分子形燃料電池の電流電圧特性を測定するとともに、界面の存在を明らかにするためにインピーダンス測定を行った。その結果、界面処理の有無による界面状態の違いが明らかになり、プロトン伝導に対する界面の影響が明らかとなった。さらに、理論モデルにおいて予測された界面のポテンシャル障壁が過電圧に対して支配的であることが確かめられ、新しいモデルによる過電圧の再現が可能となった。本モデルを用いることにより、プロトンの粒子的な集団を扱うことで従来用いられてきた連続体モデルとは異なる視点から過電圧を議論することが可能となった。今後は、原子スケールの実験や数値解析を基に界面状態を考慮することで過電圧を予測し、燃料電池の新たな設計指針を与えることが期待される。また、本モデルは界面を介したイオン伝導を説明するモデルとして応用が可能であることから、燃料電池に限らずさまざまな系に対する解析に用いることができる。
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