研究概要 |
本研究の目的は,表面や界面を含む多層構造におけるイオン流動現象に着目し,現象の理論的解明と新奇技術模索のための技術基盤構築にあった.固体高分子形燃料電池を用いて,電流電圧の計測から電解質膜中のプロトン流動の影響を明らかにし,さらにプロトン流動と電圧降下に関する理論モデルの構築を行った.異種界面におけるイオン流動の理論モデルを用いた解析により,多層構造である膜電極接合体を流動するプロトンがその過程で非弾性散乱によりエネルギーを散逸することで電圧降下が生じるメカニズムを示した.この結果から,異種界面におけるプロトンのエネルギー散逸を抑制することが,電圧損失を抑制するために重要であることを示した.一方,リチウムイオン電池を対象とし,キャリヤであるリチウムイオンと溶媒分子との相互作用による流動性の変化についても議論を行った.流動するリチウムイオンに対して,極性を持つ溶媒分子は溶媒和殻を形成し,プロトンの流動性を低下させる原因となることをMD解析により示した.リチウムイオンと溶媒分子との衝突により,両者の間で運動量交換が生じ,キャリヤは終端速度で運動する.この過程で非弾性衝突によるエネルギー散逸の影響が重要であることが示唆されている。また,混相流を想定したモデル化にも着手した.本研究で得られた知見をもとに,その応用として,基板表面近傍で電気泳動する生体高分子の吸着過程に着目した実験および理論解析を行った.特に,DNAは基板表面において自己集合化する特徴を有することから,そのメカニズムの解明と技術的応用が注目されている.表面の荷電状態や表面電位により,DNAの持つ負電荷と基板表面の電荷の相互作用さらには熱揺動の影響により特徴的なパターンが得られることが示された.これらの結果から,外部電場や電荷との相互作用によるイオン流動の能動的制御による新奇技術開拓の可能性が示唆された.
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