本研究の目的は、電荷をもつ微粒子(以下、イオン)が流体によって輸送されるメカニズムを、イオン濃度計測と流体計測の両方によって明らかにすることにある。イオンのモビリティー(移動度)を向上させ、イオンの到達距離や拡散範囲が大きくなるような流体による輸送法を提案し、イオン利用機器の性能向上に役立てることを課題としている。 本年度では、イオンモビリティーの向上、および拡散範囲を増加させるために旋回噴流の特性に注目し、主噴流に対する旋回成分の強度の比を変えた場合のイオン輸送効果について研究を行った。自作した速度測定Xプローブを用いて、旋回噴流の主流方向、半径方向、および周方向の3方向速度成分を測定し、同時にイオンカウンターによるイオン濃度分布測定を行った。旋回強度の大きさは、主流方向と周方向の、それぞれの運動量の比となるスワール数を用いて整理した。その結果、スワール比を大きくすることで、旋回噴流内の半径方向のイオン濃度分布を軸対称噴流のそれよりも向上させることができた。さらにイオンの半径方向への到達距離も増加し、広範囲なイオン拡散を実現することができた。すなわち本研究により、旋回噴流がイオン輸送の半径方向のモビリティーを向上すること、効果的な拡散制御が可能になることを提案することができる。また噴流中心軸上のイオン濃度分布から拡散係数を算出したところ、イオンの拡散係数が増加する傾向が得られた。これらのことは、除電器・除菌器などのイオン利用機器の性能向上へ、直接的に役立つ成果といえる。 また噴流の乱れ強さやレイノルズ応力などの乱流成分が卓越する噴流内の位置で、イオン濃度分布のばらつきが大きくなることがわかった。このことは、噴流中に導入されたイオンの挙動は、イオン間に働く斥力やブラウン運動などよりも乱流の渦スケールに大きく影響を受けることを明らかにするもので、イオン輸送のメカニズムを解明できたといえる。
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