研究概要 |
本研究の学術的背景としては,下記の2点が挙げられる.1点めは,ITおよびロボット技術(IRT)を利用して人間の熟練した技能を再構築する,言わば"技能の技術化・デジタル化"がテクノロジーの発達とともに可能になりつつあることである.すでに製造業分野では,人間では不可能な高精度の作業がロボットによって実現されている.高度な技能を要求される医療分野においても医療診断・治療ロボットの開発により,熟練した専門医のように人体に対して安全・安心に動作するとともに,人間の能力を超える,高精度な診断・治療を実現することが期待されている.2点めは,強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound : HIFU)による非侵襲治療技術の顕著な発達である。これは,球面型の超音波振動子を用いて超音波を集束させることにより、周りの体組織に損傷を与えることなく、体内の狭い領域にエネルギーを集中させるというものであり、正常な組織を損傷させることなく患部のみを治療することができる。 本研究課題は,下記の2つの医療診断・治療技能を取り上げ,IRT技術を基盤として,HIFUを利用した非侵襲超音波診断・治療統合システムの構築法を確立することを目的とし,研究期間内に,動物実験レベルでのシステムの有効性および安全性を実証することを目的として研究を遂行した. (i)腎臓結石の診断・治療,(ii)腎臓癌の診断・治療 具体的に,上記の診断・治療に対して,2方向からの超音波画像をもとに画像追跡技術を利用して患部の運動補償を行なう非侵襲超音波診断・治療統合システムの構築法を研究し,以下の成果を得た.ここで提案する非侵襲超音波診断・治療統合システムでは,呼吸等により能動的に運動する患部を抽出・追従・モニタリングしながら、超音波を集束させてピンポイントに患部へ照射することにより、癌組織や、結石の破壊を、患者の皮膚表面を切開することなく非侵襲かつ低負担で行なう. まず,超音波画像による患部追従の問題点を明らかするとともに,この問題を解決するために2つのアプローチを提案した.最初のアプローチは,診断効率向上および患者の安全性向上を目的として.患部への追従誤差を最小化しようとするアプローチである.2番目のアプローチは,患者の安全性向上を目的として,追従誤差の影響を最小化しようとするものである.最初のアプローチから,呼吸による患部運動の周期性に着目した追従制御手法を提案した。2番目のアプローチから,追従誤差に応じて治療用超音波の強度を制御する方法を提案した.
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