研究概要 |
本研究では,後期高齢者の安全な移動を確保する移動システムの構築を目指し,歩道内を移動するハンドル形電動車いすの事故調査や製品としての安全調査を整理した.その結果,交通事故が増加傾向にあり,歩道上での接触等はデータとしてあがってこないことから,まず高齢者が歩道内でハンドル形電動車いすで移動する際の不安全行動の抽出とその要因を運転能力と走行環境の両面から分析を行った結果,以下に示す知見をえた. 1.高齢者が電動車いすで移動する際,どのような不安全行動を起こすかを抽出するため,前方映像,顔,操作部の映像データを計測可能なシステムを構築し,得られた走行データを分析した結果,不安全行動として,交差点の死角や歩行者,信号などを確認しないなどの安全不確認が最も多いことがわかった. 2.電動車いすを操作する上で必要な運転能力として,視覚的な能力に注目し,有効視野,分割的注意能力,選択的注意能力,抑制機能,深視力の能力を挙げ,これらの運転能力を計測する運転能力計測方法を提案した. 3.1で得られた不安全行動と2で得られた高齢者の運転能力の関連性を運転行動過程モデルをたて,分析を行った結果,有効視野の低下が原因となり,歩行者などのハザードを確認することができず,歩行者などの発見が遅れたり,気づかない行動や,複数のものを同時に処理する走行環境下では,分割的注意能力の低下が原因となり,同時に複数のハザードを検出できない,あるいは同時に複数のハザードのリスクを見積もることができず,操作不適や安全不確認となる可能性があることがわかった.また,注意すべき対象でない刺激が視界に入ってくる状況下では,抑制機能の低下が原因となり,注意すべき対象でない刺激に注意が向き,向けるべき対象に注意を向けることができず,その結果,安全不確認になる可能性があることがわかった.
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