研究概要 |
これまでに非麻痺側肢体(前前腕部など)に麻痺側足底圧を触覚バイオフィードバック(BF)する知覚支援RTを開発している.本年度はこれを用いて,非麻痺側へのBypass刺激を頼りに,麻痺側に意識を向けさせる訓練を続けることで,麻痺側制御半球への賦活転移が図られるのではという仮説を立て,脳機能検査装置fNIRSを用いて脳神経学的に検証を行った. まず,BFによる機能回復過程に関する仮説を導出した:(1)注意強化期:非麻痺側にBypass呈示されるBFによる刺激と麻痺側の接地状態を対応づけることで,麻痺側に注意を向けられるようになる;(2)運動回復期:BFに基づく運動訓練を行うことで更なる注意力の向上に加え運動機能の改善が現出し始める;(3)弁別回復期:更に運動訓練を行うことでBF無しでも麻痺側知覚の弁別機能等が向上し始める. この仮説が正しければ,(1)において麻痺側への注意が向上してゆくにつれ,Bypass刺激呈示時に麻痺側感覚野の賦活レベルが高まることが予想される.この考えを検証するべく,片麻痺者2名を対象に,3ヶ月間,週に1度,麻痺側への注意を促す訓練(足底接地圧の遷移,脚間体重心移動,接地・離地)を行った.訓練開始1ヶ月後にfNIRSで麻痺側足部体性感覚野の賦活量を測定したところ,麻痺側足底だけに圧刺激を加えた時と比べ,非麻痺側にもBypass圧刺激を呈示した時の方が,脳賦活量(比較:平静時)が有意に高くなる効果が認められた.また,訓練初期に内反傾向が強かった慢性期の片麻痺者において,姿勢不安定化を招いていた小指側への過加重が顕著に低減しており(全足圧に対する比:70%⇒20%),運動機能にも良好な改善傾向が認められることが示された. 以上,片麻痺者に知覚支援RTを適応することで,麻痺側身体に注意を向けさせられる効果が脳神経学的にも示唆されるという新たな知見を得ることに成功した.
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