本年度は、脳神経医学の知見に基づき、麻痺側足底圧を対側にバイオフィードバックする知覚支援RTにより脳賦活を促進させやすい呈示部位に関する仮説の立案と脳神経学的検証を行った。以下の2点の性質に着眼した:(1)障害を受けた側の脳(病巣側)の賦活が知覚支援RTのバイパス刺激により促進されやすい;(2)元来麻痺がおきにくい。非麻痺側へのバイパス刺激で賦活される正常側の脳への情報は、病巣側に伝播し、病巣側の正常な皮質に機能転移する必要がある((1))。そこで、交連繊維を介して左右脳が情報を交換し合う脳梁に着目することとした。脳梁の影響を密に受ける額は、四肢に比べ、バイパス刺激による賦活情報が病巣側に伝わり機能転移しやすいと推察される。一方、脳出血で良く観察される中枢性顔面神経麻痺では、交叉性繊維のみの支配を受ける顔面下部では麻痺が見られるものの、両側神経支配を受ける顔面上部では、左右脳どちらに損傷が生じても感覚が鈍麻しづらい((2))。以上より、脳梁交連性と両側神経支配の両性質を有する「額」は、脳機能再編を阻害する要因が少ないことから、病巣側の感覚野を効果的に賦活できる可能性が高いといえる。 上記の考えに基づき、足底接地状態を5箇所への振動で呈示する額装着型呈示Unitを開発した上で、刺激に対する認知のしやすさを4つの部位(額、指、前腕、背中)で比較した。被験者(計14名:片麻痺者、健常者)に対し圧刺激をランダム呈示した上で回答してもらう二種類の試験を行った:(a)静的刺激テスト(10種の定常刺激);(b)動的刺激テスト(12種の時変刺激)。評価のため、正答率の偏差値に加え、fNIRSにより麻痺足相当部の病巣脳の感覚野賦活状態を安静時と比較した。結果、額では脳賦活量と正答率が共に他の部位より有意に高くなる結果が得られたことから、額への呈示は、麻痺側足底への意識を向けやすくなることが示唆される。
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