研究課題
ZnOへの遷移金属元素の添加は、励起子と局在スピン系の相互作用によりバンド端で巨大な磁気光学効果が発現する。本研究では、量子井戸構造の概念を適用し、局在スピン系と励起子系を空間的に分離した磁性量子井戸構造を形成し、円偏光を有した吸収及び発光を有するZnO系の磁気光学材料の創成を目指している。本年度において、(1)Zn_<0.90>Co_<0.10>O/ZnO量子井戸構造の高品質化及びその光学応答の観測、(2)Zn_<1-x>Co_xO(x=0.0015)単層膜おける磁気分光を実施した。(1)Zn_<0.90>Co_<0.10>O/ZnO超格子構造は、Zn極性ZnO基板上にパルスレーザー(PLD)堆積法を用いて形成した。ZnOにおけるZn極性成長は、2次元成長が優先的に支配したlayer-by-layerモードを示す。Zn_<0.90>Co_<0.10>O及びZnO層は、7-10周期で8nmの層厚でそれぞれ制御した。超格子試料の表面形態は、1nm以下の高平坦性を有し、X線回折測定から、明瞭な超格子ピーク及びフリンジを観測した。更に、発光分光より、ZnO層に起因した励起子発光を明瞭に観測し、良好な超格子構造の形成を確認した。(2)Zn_<1-x>Co_xO単層膜における磁気分光は、超伝導マグネットを有した低温クライオスタットを用い、磁場印加下(0から7T)にて測定した。分光は、励起子及びCoに起因した内核(3d遷移)発光に注視した。Coの内核発光は明瞭な磁場依存性を示す一方、励起子発光の磁場印加に伴う変調は見られなかった。この結果は、励起子遷移とCo(3d)遷移との間に直接的な相互作用が希薄であることを意味する。これは以下の理由に依る。励起された電子及び正孔が、バンド端にて励起子再結合に至る前過程で、Coイオンに捕捉される為である。つまり、Zn_<1-x>Co_xOの励起子発光の抑制効果は、Coイオンによるキャリア捕捉が起源であることを、磁気分光測定から解明した。本研究成果は、磁性と非磁性層とが空間分離した磁性量子井戸構造の必要性支持する結果と位置付けられる。
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Journal of Applied Physics (in press, 印刷中, 掲載確定)
Applied Physics Letters 941
ページ: 161907(1)-161907(3)