研究概要 |
本研究では、量子井戸構造の概念を適用し、ZnO材料を基盤にした巨大な磁気光学材料の創成を目指す。ZnOを井戸層に、ZnCoOを障壁層とし、磁性イオンと励起子をナノスケールで空間分離させた量子井戸の作製を実施した。ZnCoOは、Co濃度の増大と伴に、バンドギャップが増大し、量子障壁層としての機能がある。しかし、磁気円二色性(MCD)の測定より、Co濃度の増大は、酸素2p軌道とCoの3d軌道の重なり合いを弱くし、s,p-d交換相互作用が結果として小さくなる。故に、強いs,p-d交換相互作用、及びバンドギャップの増大を維持するためには、適切なCo濃度は、約10%であることを見出した。Zn_<0.90>Co_<0.10>/ZnOのヘテロ界面におけるバンドオフセットは、160meV程度である。Zn_<0.90>Co_<0.10>/ZnO超格子は、ZnO及びC面サファイヤ基板上にパルスレーザー堆積法を用いて形成させた。X線回折及び透過電子顕微鏡観察から、良質な超格子構造の形成が確認された。本研究では、量子井戸内に閉じ込められたZnOの励起子に関する波動関数が、障壁層に僅かに染み出す。井戸層から染み出した波動関数は、障壁層であるZnCoOの磁性イオンとの相互作用を生じ、非磁性層であるZnO井戸層に磁気的変調を与える事を想定した。量子井戸のバンド吸収端で、スピンのゼーマン分裂に起因するMCD応答を観察し、ZnCoOとZnO界面で磁気的相互作用の存在を明らかにした。しかし、明瞭な量子井戸からの発光は観測出来なかった。理由として、ZnO量子井戸内におけるキャリア再結合エネルギーがCo原子の電荷移動励起に消費された可能性が考慮された。今後は、ZnCoO内のCoの電荷移動励起よりも低いエネルギーが有するCdZnO/ZnCoOの量子井構造の形成が必要である。
|