研究概要 |
本研究では,パルスレーザー蒸着(PLD)法におけるターゲット切替法を用いて,(1)超伝導層(超伝導性を維持し超伝導電流を流す層)と(2)ピン導入層(高臨界電流密度を実現する層)の2種類の層を様々に挟み合わせデザインした高温超伝導体YBa_2Cu_3O_Y (YBCO)多層膜を作製するサンドイッチ型人工ピン導入法により,磁場中の高臨界電流密度化を図ることを目的として研究を行った. 平成22年度では,ピン導入層におけるピンの空間分布の制御を行うために,導入するピン物質としてBaZrO_3を用いて1層あたりのBaZrO_3の導入量を固定し,層厚(YBCO 1層の厚さ)と成膜温度により,BaZrO_3/YBCO擬似多層膜内における導入されるBaZrO_3ナノ粒子の空間分布制御を試みた. 低い成膜温度で作製した場合,層厚に関わらず,空間的にランダムに分布した球状ピンに特徴的な臨界電流密度J_cの磁場方向依存性を示し,導入したBaZrO_3が球状ピンとして作用することを確認した.成膜温度が高い場合では,YBCOの層厚が厚いとB || abを除く磁場方向で同値のJ_cを示した.一方YBCOの層厚が薄い場合には,c軸方向に平行に磁場を印加したときにJ_cがピークを示し,層厚が薄いほどより顕著になる.また,成膜温度が高いとB ||abを除く磁場方向で,J_cが大幅に増加した. これらの原因として,(1)成膜温度が低い場合には,BaZrO_3付着原子の表面拡散距離が抑制されるために,BaZrO_3ナノ粒子の空間分布はランダムになりやすい,(2)YBCOの層厚が薄くなると各層のBaZrO_3ナノ粒子が膜厚方向に相関して配列しやすくなることが考えられる.よって,層厚や成膜温度を制御することで,ピン導入層となる擬似多層膜内のナノ粒子の空間分布の制御でき,これによりJ_cを改善できることを明らかにした.
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