【研究目的】現在、シリコン半導体デバイスのゲート長は十数nmにまで微細化が進んでいる。このような極小デバイス中におけるドーパント原子の分布は、デバイスの電気特性に大きく影響を及ぼすとされている。しかし、原子スケールで見たシリコン表面近傍におけるドーパント原子の電荷状態や電子散乱への影響はよく調べられていない。本研究では、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてシリコン表面に分散するドーパント(リン)原子の電荷状態と量子力学的挙動を調べるため試料作製として、Si(100)表面に吸着したリン分子の吸着構造と電子状態を調べた。 【実験方法】Si(100)基板を1400Kで加熱することにより自然酸化膜を除去し清浄表面を作製した。その後基板を78Kまで冷却した後、室温までゆっくりと暖めながらリン原子の堆積を行った。リン原子の堆積はInPの小片を600Kに加熱し、リン原子を蒸発させることにより行った。 【実験結果】InPを蒸発させて得られるリン分子の大部分はリンの二量体であり、ごくわずかに四量体が含まれる。これらのリン分子線にSi(100)表面を暴露すると、四種類の異なるサイト(I~IV)に吸着した二量体と一種類の四量体が観察された。これらの吸着構造は、STM像のバイアス依存性、トンネル分光、DFTによるシミュレーションを合わせて比較することで決定することができた。また、サイトII~IVに吸着した二量体および四量体は、比較的大きなバイアスを用いてSTM観察を行うと、全て二量体のサイトI構造に変化することが見いだされた。この結果はサイトI構造がSi(100)表面で最安定な構造であることを示唆しており、DFTによるトータルエネルギー計算もこの結果を支持している。さらに、リン分子が吸着した基板を300℃以上で加熱することで、リン分子の分解およびシリコン原子との置換が起こり、リン原子を表面に埋め込むことができることを確認した。
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